大阪高等裁判所 昭和27年(く)26号 決定 1952年7月05日
即時抗告申立人 弁護人 藤上清
再審申立人 高木ふじゑ
主文
本件抗告は、これを棄却する。
理由
本件抗告理由の要旨は、再審申立人高木ふじゑは昭和二十四年十二月二十三日、昭和二十二年勅令第九号違反の罪によつて大阪地方裁判所で懲役四月に処せられ、右判決は当時確定したが、原判決の証拠となつた証人赤松栄子の証言が虚偽であつたことが証明できるから、再審の請求をしたところ原裁判所は理由なきものとしてこれを棄却したので即時抗告の申立をするというにある。
しかし、刑事訴訟法第四三七条が原判決の証拠となつた証言の虚偽であつたことの確定判定を得ることができないときに限つてその事実を証明して再審の請求をすることができる途を拓いている法意は、虚偽の証言をした者が死亡したためその者に対して刑事訴訟法第四三五条第二号にいう確定判決を得ることが不可能であるとき、又は偽証の事実は証明十分であるが他の理由で有罪判決を得るに至らなかつたときとか、かような確定判決を得ることができないことが確定的である例外の場合に対処する規定であること明白である。従つて虚偽の証言をした者を追及して確定判決を得られる方途の存する以上は、前記四三七条の規定の適用はないものと解するのが相当である。すなわち、若し確定判決を得られる方途の存する場合でも、再審理由となつた犯罪のあることの証明を許すことになると、刑事訴訟法第四三五条第二号が原則として確定判決の存在を要求する法意が没却せられてしまうであろう。本件再審請求趣意書によると「尚偽証の点に関して目下本件被告人が告訴人となり、右証人を被告訴人として大阪地方検察庁に告訴して居りますので或は確定判決を得られるかも知れません」というのであるから、本件が刑事訴訟法第四三七条の規定によつて再審の請求のできる場合に該当しないことは被告人の主張自体で明白といわねばならない。従つて、本件再審の請求が理由のないものとして棄却した原審の決定は結局、正当であると言わねばならない。
よつて、刑事訴訟法第四百四十七条を適用して主文の通り決定する。
(裁判長判事 斎藤朔郎 判事 松本圭三 判事 網田覚一)